セビロの未来予想図
スーツの誂え方
スーツの購入方法
現在、スーツを購入する方法は、大まかに分けて二通りあります。
一般的なスーツの購入方法は、既製服のスーツを買うことです。以前は「吊るし」といっていました。
試着してイメージを確認しやすく、パンツの裾上げが終わればすぐに着ることができます。ただし、サイズやデザインは出来上がっているので変更はほぼできません。
それに対してオーダースーツは、かつて「注文服」とも呼ばれてました。最近急速に増えてきましたが、もともと昭和のはじめまでは、注文してスーツを作るのが主流でした。納期は、工場の混み具合やオーダーを受けた職人のやり方によって、7日から40日くらいとマチマチです。しかし、寸法は自分に合うサイズで出来上がり、デザインも概ね要望を取り入れてもらえます。
オーダースーツの種類
またオーダースーツは、測り方や仕上げ方がメーカーや職人によって千差万別なのですが、おおむね三種類に集約することができます。
・一つ目のパターンオーダーは、既製品の型紙を使いながらもジャケットの袖丈、着丈、ウエストのダシ、ツメと、パンツの裾上げ、ウエストのダシ、ツメができます。
・二つ目のイージーオーダーは、それ用の型紙があるんですが、寸法補正範囲がパターンオーダーよりも広いケースが多く、加えて怒肩、撫肩(下肩)、出尻、平尻など体型補正で、できることが大幅に増えます。
・三つ目のフルオーダーは、お客様に合わせて型紙を作りほぼ手作業で仕上げます。フルハンドとも言います。仮縫いがあり、サイズ調整やデザインをより細かく指定できます。
ス・ミズーラとは
1990年代、クラシコイタリアがブームの頃の話です。当時私は、洋服のセレクトショップに勤めていました。その頃、イタリアの仕立て屋やスーツメーカー、メンズブランドなどと協業して、ス・ミズーラ会(イタリア語でオーダー会のことです)を数度企画し、イタリア人フィッターを何人も日本に呼びました。
イタリア人フィッターの測り方は十人十色で、オーダーのやり方も、仮縫い付き、直縫い、イージーオーダー、パターンオーダー、などメーカーによってマチマチでした。
話しは脱線しますが、この当時ハンドメイドクラスなる言い回しが流行っていました。そこで私は、どのくらい手作業をしているのか、仕上がりの時、確かめてみました。
まあこれは私の主観になるんですが、ス・ミズーラ会でのオーダー上がりを検品した限りでは、仮縫い付きや直縫いの仕立て屋が作ったものはおおむねハンドメイド、イージーオーダーとパターンオーダーのメーカーは半分くらい手を使ってました。
でもこれは、北部のメーカーなのか、南部の職人なのかによって違いました。また価格帯によっても幅がありました。
話しはさらに脱線するんですが、この当時、電動ミシンはマシンメイドだが、足踏みミシンはハンドメイドに分類してもいいのではないか?なんて着こなしとは関係ないところで、メンズのファッション雑誌や紳士服業界がドンドン盛り上がっていました。
また、あるクラシコイタリアの工場にはそもそもミシンなんか無い、なんて噂が立ったので、さっそくその日本支社のイタリア人に確かめたところ「ミシンですか、もちろんありますよ。」なんてアッサリ教えてくれました。でも、それじゃあ、日本の紳士服業界は一体何に盛り上がってるんだろう、なんて思いましたね。
話をス・ミズーラ会に戻します。
数人のイタリア人フィッターに、私のつたないイタリア語で聞いた限りでは、イタリア語の su misura は、パターンオーダーからフルオーダーまで、どのレベルのオーダーに使っても差し障りないようだったので、幅広く使っていました。
ところが、その頃の日本のアパレルや小売業の人達は、やっていることはほぼ同じなのに、イージーオーダー、メジャーメイド、カスタムメードなど、なぜか“呼び名”に独自性を持たせようとこだわっていました。でもイタリア人は、どう呼ぶかなんて言葉へのこだわりはないようでしたね。
彼らがこだわるのは“呼び名”ではなく、自分達の“スタイル”に、なんです。
ナポリのフィッターはサイドベンツを選んでもノーベントで上げてきたり、2プリーツでオーダーしたのにプレーンフロントになったりしました。
フィレンツェのサルトは裾幅22cmを指定しても21cmより細くしたほうがいいぞ、と言い案の定20cmで上がってきたりしました。
しかし彼らは、いい加減に仕事をしているのではなく、自分達のスタイル(ハウススタイル、ハウスモデルなどと呼ばれている)が一番だと思ってやっている訳です。
だから彼ら自身の格好をみて「カッコイイな」、「同じような服が欲しいな」、と思ったなら、オーダーすべきなんです。
日本のイージーオーダー
その後、私自身も日本のメーカーのイージーオーダーのフィッターをしましたが、先にス・ミズーラを経験した私にはこのシステムはいかにも日本的だと感じました。
ほとんどの日本のメーカーは、日本のお客様の細かい要望に応えるべく、反身、屈身(伸)の他に、腹グセ、ゴージカット、前肩補正、衿みつのダシツメ、O脚補正にまで対応します。
ここが日本のメーカーの、日本的にスゴイところです。
着る側の心得
しかしながらそれ以前に大切なことを、着る側の人に言いたいんです。
それは着る人にとって大事なことは、何を着たいのか?どこで着たいのか?ということです。さらに言えば、どう見せたいのか!ということに一貫性を持ってほしいのです。
このポイントをしっかりと押さえてほしい。
たとえば、あるメンズショップへ行ったとします。その店は、必ずしもオーダー専門店ではないが、パターンオーダーは可能なショップだとしましょう。
あなたは、その店のハウススタイルがかっこいいと思っている。その店のコンセプトがしっかりしており共感できると思っている。
それなら、あなたは、そのメンズショップのパターンオーダーでスーツを作るべきです。そのスーツは、きっとあなたにとって満足できる一着になるはずです。
2020年、新型コロナウイルスのため、外出自粛が数ヶ月続いています。その結果、今まででは考えられない多くのメーカーやショップが、本腰を入れてオーダースーツをネットで販売しています。今後もネットの比率は確実に上がると思います。
ではオーダースーツのリアル店舗は無くなるのでしょうか。遠い将来は分かりませんが、しばらくはリアル店舗とネットは共存していくと思います。
どちらにしても、今後、売る側は、今まで以上に自分たちのスタイルやテーストを前面に出していくべきです。
また着る側も、自分の好みや目的を明確にして、フィッターと正しい話し合い、つまりビスポーク(Be Spoken)を積極的にしてほしいのです。
これこそ、スーツを誂える楽しみ、ということです。